日本企業がグローバル展開を進める際には、「なぜ海外へ出るのか」という問いに明確な筋道を示すことが不可欠です。経験や勘だけに依拠した説明ではステークホルダーの納得は得られず、企業価値としての説得力も高まりません。そこで必要となるのが、戦略の根拠を示す“研究力”という無形資産であり、これは海外市場で信頼を獲得するうえでも極めて重要な経営リソースになります。
これまで日本のアグリフードビジネスは、生産から販売までを一貫管理する体制づくりと高い技術力で成長してきました。しかし現在は、生産効率の向上だけでは競争優位を維持できず、市場価値を再定義できる「新しい付加価値」の創出が企業の成長ドライバーになっています。ドローンやデータ活用など新しい付加価値のための取組を進めていますが、日本全体に目を向けると人材不足や生産・流通の構造課題が依然として解消されていません。
アグリフードは「和食」という世界的文化資産の土台となる産業であり、この分野で日本が発信する価値は大きな潜在力を持っています。特に「米」は、和食の主食という位置づけだけではなく、世界の食文化における健康的で持続可能な食材としての可能性を持ち、和食の根幹を支える重要な要素です。食文化を世界に届けるには、海外の市場構造や消費行動を科学的に把握し、日本の文化資源と結びつけて新しいビジネスモデルへ変換する「研究開発型の国際戦略」が不可欠です。これにより、日本と世界を双方向につなぐ循環をつくり、「国際レベルの日本型アグリフードモデル」を確立できます。
虎屋が「虎屋文庫」を通じて研究と文化継承をブランド資産に変えてきたように、研究は企業の経験をデータとして蓄積し、無形資産を次世代に引き継ぐナレッジマネジメントの機能を果たします。これは、企業が長期的競争力を確保するための中核的なアプローチです。
また、文化や価値をつくるのは最終的には「人」です。人口減少とグローバル化が進む中、企業の未来を担う人材を体系的に育てる“ヒトづくり戦略”が経営の必須要件になっています。日本的な食文化を守りながら、海外と融合した新しい価値をつくるためには、人材開発と文化継承を同時に進める仕組みが必要です。企業の歴史を次の1000年につなぐには、研究力を軸とした新しい組織戦略が求められています。
羽生国際アグリフードビジネス研究所は、単なる研究拠点ではなく、「学術×国際展開×食文化継承×次世代人材育成」を統合した新しい企業モデルの構築を目的としたプロジェクトです。「研究による創造と継承」を基軸とした次世代モデルをつくり、エビデンスに基づいた強靭な経営基盤とデータ駆動型の人材戦略を備えた新しいアグリフードビジネスを創出します。
研究所所長 羽生 惣亮